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我々はいつも光を求めていた。
そんな願望を抱くのも、決して光の世界とは交われない宿命を背負っているからかもしれない。
光のない世界で、強く狂おしいほど光を請い願う。
光を――
闇にあっても決して消えぬ光を――
闇にあっても闇を消さぬ光を――
そして、彼女が現れた。
彼女はただの人の子だった。
それでも我らにとってはかけがえのない光だった。
皆その光を我が物にしようと我先にと飛び出した。
けれど、彼女は光に生きる者。
我らは闇に生きる者。
闇の者が不用意に光の中に身を晒せばただではすまない。
光の出現に我を忘れて飛び出していった者たちは、光に耐え切れずに消えていった。力の弱い者は一瞬で、ある程度力のある者は苦しみながら。
私は愚かな者たちが消えていく中、闇の中でじっと考えていた。
彼女を――光を手に入れるにはどうしたら良いか。
誰にも捕られぬように、何者にも奪われぬように。
そのためには光の中でも不自由なく動ける身体が必要だった。それもいつも彼女の側にいられる身体だ。
それは探すまでもなく、彼女の隣にあった。
いつも彼女の後を付いて回る一つ年下の弟。その童を巧みに闇の中まで誘いこみ――喰らった。
そうして誰にも気付かれることなく、彼女の隣に溶け込んだ。
決して失わないように、この手に収めるために。
すべての者から彼女を守った。彼女を手に入れようとする同属たちからも。彼女に傷をつけようとする人間たちからも。
次第に、同属の者たちは側に私がいることを知ると手を引き、人間たちは関ると気味の悪いことが起こるために近寄ることはなくなった。
彼女の隣には私だけが残った。
すべては彼女を失わぬため。
私は彼女を闇に引きずり込まなくても、このままでもいいと思い始めていた。
彼女は私の隣にいて、私は彼女の隣にいる。
それだけで、もういいと思っていた。
あぁ、けれど私にも守りきれぬものがあったのだ。
それは病だ。
私は守りきれなかった。
彼女は病に倒れ、死の床についた。
今まさに光は消えようとしていた。この手からこぼれ落ちようと。
けれど失うわけにはいかなかった。
光を――私だけの光を、この手から奪われるわけにはいかなかった。
だから私は賭けをした。
下手をすれば光は闇に呑まれるか、闇が光に呑まれるか。
上手くいけば、光は永遠に。
一か八かの賭け。
私は彼女を闇に引きずり込んだ。