自責

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 食卓に並べられた料理を前に、男はまた自分の情けなさを実感していた。
 今朝自分の情けなさを深く反省した彼は、自分よりもだいぶ年下の女の子に世話になりっぱなしは悪いと思ったのだ。だから今日はせめて食事の用意ぐらいは手伝おうと思っていた。なのに、彼が起きてきたらば、もうすっかりと食事の用意は整えられ、後はもう食べるばかりという段階。
 結局この少女に何から何まで世話になりっぱなしだ。
 それでなくても昨日から情けないところばかりを見せているというのに。
 肩を落として自己嫌悪に陥ってる男に、少女は首を傾げている。

「どうかしましたか?」
「あ、いや……なんだか昨日から世話になってばかりで申し訳なくて……」
「気にしないでください。一人分より二人分のほうが作りなれてるもの」
「あぁ、エレナがいたころから君がご飯作ってたって言ってたもんね」
「あの人は家事に関してはまったく気を配らない人だったから」
「エレナは昔っから、何か一つのことに集中しだすと他の事には気が行かなくなってたからなぁ」
「ところで、今日はどうします?」
「うん?」
「村の人にも話を聞いてみますか? あの人はあまり他人と交流していなかったからたいしたことは聞けないと思うけど。それとも」

 少女はそこで言葉を切って、少し首を傾げた。

「もうお帰りになります?」

 確かにこの村での男の目的はもうない。当初の目的であった元恋人と会うことは叶わなかったが、彼女の娘と会うことが出来て、生前の村での暮らしぶりも聞くことができた。
 これ以上ここに滞在し続ける理由はない。
 けれど、彼にはまだ去りがたい気持ちがあった。
 気にかかっているのはこの少女――フィオレのこと。
 彼女の存在が彼を帰途に着かせるのを躊躇わせていた。

「いや……村の人にも、話を聞いてみたいな」
「そうですか。それじゃあ後で案内しますね」
「ありがとう」
「いえ。それよりも冷めないうちに食べてください」
「あ、うん、そうだね。いただくよ」

 男は慌てて目の前の食事に手を伸ばした。