Sleeping in the snow

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 こんにちは、冬子です。冬の子供と書いてトウコと言います。
 私は北の地方の大きな都市のはずれにある小さな家に居候している幽霊です。
 暑い夏が過ぎ、短い秋も通り過ぎ、街は雪が随分と積もって、もうすっかりと冬の様相です。
 名前に冬という言葉を持ちながらも、私はこの季節が好きではありません。
 私は幽霊ですから、寒さも、雪の冷たさも感じることはありません。それでも、冬になると寒さを感じます。
 もしかしたら、寂しさのせいなのかもしれません。
 冬――特に雪が積もり始めると、他の幽霊さんを見かけることがなくなってしまうのです。いつもお友達の幽霊さんがいらっしゃる場所に行っても、影も形も見えないのです。
 最初は消えてしまったのかと思いました。ですが、雪が融けて暖かくなってくると再びいつもの場所に姿を現すのです。
 もしかしたら色々な動物が冬眠するように、幽霊さんたちも雪の下で眠っているのかもしれません。
 私だけが他の季節と変わらず、ふらふらと過ごしています。
 冬でも私は日課の散歩には出かけます。お友達の幽霊さん達の誰とも会えないとは分かっていても、家の中に閉じこもっているにはこの辺りの冬は長すぎるのです。
 雪に沈んだ街を一人歩きながらよく考えます。
 私はなんなのだろうと。私一人だけが一ヶ所にとどめられず、私一人だけが冬に眠らない。私と他の幽霊さん達との間にどんな違いがあるのでしょうか。私には分かりません。いつまでも、ずっと、このまま一人取り残されていくのだろうかと当て所なく考えます。
 何故私だけがと思わないでもありません。
 他の幽霊さんと同じように雪の下で眠りにつくことができたら、冬を嫌いになることもなかったかもしれません。
 他の幽霊さんと同じように一つ所に縫い止められて動くことが出来なければ、寂しいと思うこともなかったかもしれません。
 私は幽霊ですから、生きている方とは話せません。世の中には、霊能力者や霊感のある方などというのもいらっしゃるようですが、私はまだしっかりとは会ったことはありません。そのような方でしたら、私の声も聞こえるのでしょうか。居候させて頂いているお家の猫のトラコさんは話を聞いてくれますが、言葉を返してはくれません。幽霊の方としか私は会話ができないのです。
 そのため、冬の間、私は誰とも言葉を交わすことが出来ません。
 それが私はとても寂しいのです。
 寂しくて、寒くて、冬の間はいつも、暖かく柔らかな春の日を待ち望んでいます。