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宿題が一段落着いたところで、継春は一つ息を吐きながらペンを机の上に置いた。
絵筆やペンなどはいつも使っているはずなのに、用途が違うだけでいつも以上に疲れる気がした。
両腕をぐいっと伸ばしながら背をそらす。ついでに首も軽く回した。
ちらりと視線だけで時計を見て、机の横にかけていた鞄からスケッチブックを取り出した。
ぱらぱらとめくって途中のページを開く。そこには一枚の写真のコピーが挟まっている。
先日、先輩から貰ったもの。
モノクロの古い写真。痩せた少女が一人、ベッドの上で上半身を起こしている様子が写っている。
膝に大きな本を抱えながらこちらを見上げるまなざしはどこかうつろだ。その表情からは感情を見出すことはできない。
おそらくは冬子さんと同一人物――生前の姿なのだろう。
けれど普段の控えめながらも表情豊かな彼女を知っている分、継春には違和感がぬぐえなかった。
表情のない顔。そこには苦しみや悲しみもなく、諦めも絶望もない。
幽霊となった今のほうが表情は生き生きとしているというのは不思議なものだった。
ベッドの上からどこにも行けなかったかつてよりも、多少の制限はあるものの自由に行きたい場所に行ける今のほうが、おそらくは幸せなのだろう。
だが、それはいつまでだろうか。
継春は思う。
彼女が生きていたのはずいぶんと昔のこと、おそらくは何十年も前。
自分と出会うまで、彼女はどれだけの間幽霊でいたのだろうか。
満足すれば、いつかは幽霊でなくなるのだろうか。
早く満足できればいいと思う。
同時に、まだここにいてほしいとも思う。
「我が侭だな」
継春はつぶやきながらスケッチブックを閉じた。