Draw a picture EXTRA

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 キャンバスに筆を乗せる。
 毛先が表面を撫でるごとに色が現れる。
 画面は暗い。雨が降っている。
 強い雨ではない。しっとりとした小雨。
 しっとりと濡れた紫陽花。花の色は青みを帯びた紫。
 手前の大きな葉には角を伸ばしたカタツムリが一匹。
 少女が一人、しゃがんで覗き込んでいる。
 表情は見えない。耳の下あたりから編まれた三つ編みの向こうの肌は透けるように白い。
 彼女の頬に赤みが差したことはない。それは、これからも決して見ることはない――
 継春は詰めていた息を吐いた。
 椅子を引いてキャンバスから離れる。

「や、元気?」

 一息吐いたのを見計らってか、声をかけてきたのは一つ上の先輩だった。
 さすがにこの時期ともなればほとんどの三年生はもう部活に顔を出すことはなくなっていたのだが、この日はたまたまやってきていた。

「先輩、こんなところで油売ってる暇あるんですか」
「たまには息抜きも必要よ!」

 そう言いながら先輩はわざわざ継春の隣に椅子を持ってきて座った。
 継春は軽く息を吐き、筆をおいた。
 先輩は描きかけの継春の絵を見る。

「これ彼女?」
「違います」

 からかうような問いに間髪入れず否定を返した。

「じゃあ片思いの相手だ」
「なんでそういう方向に持っていきたがるんですか……」
「だっていつも同じ子モデルにしてるじゃない」

 その言葉に継春はぐっと詰まった。
 たしかに、絵の中に人を描く際には彼女をモデルにすることが多かった。けれどそれは決して彼女をメインに描いたわけではなく、絵の片隅に少し覗いているだけのもの。
 気が付かれたくないと思っていたわけではないが、まさか誰かに気付かれるとは思ってもいなかった。
 だからだろうか、魔が差したように、決して言うつもりではなかったその言葉がするりと口をついて出たのは。

「……幽霊だって言ったら、驚きます?」
「この彼女?」

 先輩は継春の言葉に視線を絵へと戻した。
 しばらく眺めてから、再び継春のほうを向く。

「若いころに亡くなった私の伯母さんとそっくりなんだよねって言ったらびっくりする?」

 さすがに継春は目を丸くした。
 してやったりというように先輩はにんまりと笑う。

「嘘、ですか?」
「さてどうかなぁ」

 楽しそうに笑う先輩と、彼女にどこか重なるような部分はあるだろうかと視線がさまよう。
 今度写真持ってきてあげると先輩は言った。