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こんにちは、冬子です。冬の子供と書いてトウコと言います。
私は北の大きな都市の外れにある、小さなお家に居候させてもらっている幽霊です。
11月も半ばともなれば、秋を通り越してもうすっかり初冬といった雰囲気です。積雪はまだなものの、時折雪がちらつき、道行く人々の口からは白い吐息がもれています。
お庭は一部の常緑種をのぞいて、樹木は葉を落とし、草花は枯れて、少しばかり寂しい感じがします。
けれど冬を越えて春になれば柔らかな緑にあふれ色とりどりの花が咲き誇ります。
冬のお庭もそれはそれで趣がありますし、夏には夏の、秋には秋のお庭の良さがあります。それでもやはり私は春のお庭が一番好きです。
冬の色彩に乏しかった景色が色鮮やかな景色へと変わっていくのを見るのが好きなのです。
きっと、それは冬の間の寂しさもあったのでしょう。
今は継春くんのおかげで冬も寂しさを感じることはありません。
幸せなのでしょう。
居間の大きな窓の前に座ってお庭を眺めながらぼんやりと思います。
最近はずっと曇りがちでお天気の悪い日が続いていたのですが、今日は久しぶりに太陽が顔をのぞかせています。
私の横ではトラコさんも寝転んで日向ぼっこ中です。
「あれ、今日はでかけないの」
お部屋から降りてきた継春くんが窓の前でのんびりしている私を見て言いました。
「はい、今日はちょっとのんびりしたい気分で」
「そうなんだ。久しぶりに天気がいいから散歩に行くのかなって思ったんだけど」
「あ、継春くんがお散歩とかどこかにお出かけでしたらお付き合いしますよ」
「いや……俺も家でのんびりしようかな」
継春くんはそう言うと、一度お部屋へ戻っていきました。次に戻ってきた時にはペンケースとスケッチブックを手にしていました。そして窓辺ではなく、少し離れたダイニングテーブルのイスに腰掛けました。
テーブルを挟んで窓の正面です。
顔をあげればまっすぐにお庭を眺められる位置です。
テーブルの上にスケッチブックを広げ、ペンケースから鉛筆と消しゴムを取り出しました。
「どうかした?」
少し見すぎていたのか、継春くんが軽く首を傾げています。
私は慌てて首を振りました。
「あ、いえ、なんでもないんです」
顔を庭へと戻します。
それでも気になってちらちらと継春くんのほうを見てしまいます。
そんな私の様子がおかしかったのか、継春くんに笑われてしまいました。
恥ずかしいです……。
「後で見る?」
その言葉に、私は勢いよくはいっと返事をして、また笑われてしまいました。