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外に出て、継春は少しだけ後悔をした。
九月の夜の風は、予想以上に冷たくて、せめて手袋だけでもしてくるんだったと思う。
けれどわざわざ取りに戻るのも面倒くさくて、上着のポケットに両手を入れてやりすごすことにした。
冬子さんが楽しそうだから、それに水を差すこともない。
公園に向かう道すがら、彼女はあれこれと日中継春が学校へ行っている間にあったことなどをいつもよりも少し小さな声で教えてくれる。
彼女が声を潜めことはないのでは、指摘すれば、無意識だったようで恥ずかしそうに笑みを見せた。
途中、すこし寄り道して自販機でホットのココアを購入した。開けずに上着のポケットに手と一緒に入れる。
小さなペットボトルは熱いくらいだが、冷えている手を温めるにはいいだろう。
「寒いですか?」
「……少しね」
言葉にはしないが、冬子さんは羨ましいようだった。
寒いのがというより、季節を感じられるのが、だろう。幽霊である彼女には体感できないことだから。
四季の移ろいを感じるのが好きな彼女にとって、気温によって季節を感じられないことはとても残念なことだろう。
もちろん彼女がそのことを口にしたことはないのだけれど。
そうこうしているうちに公園に着いた。
ベンチはないので、継春はブランコの片方に座った。冬子さんももう片方のブランコに座る。
月はすでに空の高いところまで昇っている。
ポケットからペットボトルを出した。まだ十分に暖かい。
蓋を開けて一口飲む。
暖かく甘い液体がのどの奥へと落ちていく。
自然と息がこぼれた。
自分で思っているよりも体は冷えているのかもしれない。
「月、真ん丸で、きれいですね」
冬子さんの言葉に、うんと継春は頷いた。
絵を描く道具を置いてきてしまったのを少し後悔する。
いや、持ってきたところで、この夜の暗さと寒さでは満足のいく線など引けないだろう。
ココアをもう一口飲む。
じんわりとした熱が体内を温めてくれる。
継春は月ではなく、月を眺める冬子さんを見ていた。
彼女は楽しそうに月を眺めている。
「どうかしましたか?」
見られてることに気が付いて聞いてきた彼女に、継春はなんでもないと首を横に振り、今度こそ月へと視線を向けた。
きれいだなと、思った。