Far away tomorrow

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 こんにちは、冬子です。冬の子供と書いてトウコと言います。
 私は北の大きな都市の外れにある、小さなお家に居候させてもらっている幽霊です。
 八月に入り、珍しくここ北の大地でも暑い日が続いています。
 街を歩く人たちも暑さに参っているようで、心なしか覇気がないように見えます。雨もあまり降っていないので、植物たちの緑も少しばかり艶がありません。ただ、それでも子供たちは元気なようで、夏休みを満喫している楽しそうな声がよく聞こえてきます。
 ここ一ヶ月ほど、ぼんやりと、けれどずっと考え続けていることがあります。
 先月の七夕の前に継春くんから尋ねられたこと――私の、願い。
 私は幽霊です。
 そんな私が、何かを願うことなど、許されるのでしょうか。
 いえ、そもそも、私の願いとはなんでしょう。
 継春くんと一緒にいたいと思っています。
 でもそれは終わりが来るものだとわかっています。
 少しでも長くいられればいい、とは思います。
 おそらく、私はずっと、ここにいるでしょう。ここではないどこか――本当は行かなくてはいけないはずのどこかへの行き方が、私には分からないのですから。
 継春くんは生きている人です。
 何かの拍子に幽霊が見えなくなるかもしれませんし、進学などに際してここを出ていくことになるでしょう。
 別れが来ることは確実です。
 仕方のないことです。
 だって継春くんは未来に進んでいく人です。
 別れがあるのは当然です。
 私は未来には行けないんですから。
 しょうがないことです。
 ただ、どこにも行けないことを思うと、時々苦しくなります。目の前が真っ暗になったようになり、自分が今どこにいるのかも分からなくなって、身動きもとれなくなってしまう時があります。
 それでも自分を不幸せだとは思いません。たしかに、私は若くして死んでしまい、今は迷子のような行くべき場所のわからない幽霊です。でも、幽霊になったからこそ、今のように生きている間にはできなかったことをたくさん経験できています。
 なにより、継春くんと出会えました。
 これで自分は不幸だなどと言ったら怒られてしまうでしょう。
 別れは辛いことかもしれません。とても悲しいかもしれません。
 それでも、継春くんと一緒に出掛けたこと、お話をしたこと、色んなものを見せてもらったこと――たくさんの思い出があります。
 私は、ただ、継春くんと一緒にいられる今を、大切に、大事に、過ごしたいと思っています。
 できるだけ長く一緒にいられて、できるだけたくさんの思い出をつくれれば、と。
 それが、願いということになるのでしょうか。
 思い出があれば、この先また一人になったとしても、きっと大丈夫だと思うのです。
 幽霊でも、もし願うことが許されるのなら――