Under the snow Extra

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 最近冬子さんの様子がどこかおかしい。
 悪い方向にではないのだが、なんというか、そわそわしているというか、わくわくしているというか。
 まぁ、楽しそうなのは良いことだと思っている。
 冬はあまり好きではないと以前に言っていたし、雪が根雪になってしまった頃からあまり外に出かけなくなっていたようだから、気を紛らわせられる何かがあったのなら良い。
 できれば彼女には笑っていて欲しいから。
 結局自分が彼女に抱いている気持ちが何であるのかという結論は出せていない。
 いや、正確に言うのならば、出さなかった。
 答えを出すのを先延ばしにしただけだ。
 たとえこの気持ちが何であったとしても、どうすることもできやしないのだから。
 それでも、ただ、笑っていて欲しいと思う。
 だから、理由は分からないけれど冬子さんが楽しそうであるのならば良いのだ。
 もちろん、理由を教えてもらえれば嬉しいが、どうやら秘密にしたいようなので聞かないようにしている。
 月の半ばが近付いてきた頃、冬子さんに声をかけられた。
 次の休みは何か予定があるだろうか、と。
 どうせいつものように、家でこもって絵を描いているか、美術館や博物館に行くか、ぐらいのつもりだったので、空いていると返事をした。
 すると、一緒に行きたい場所があるのだと、見せたいものがあるのだと、彼女は言った。
 もちろん構わないと答えて、次の休みに一緒に出かける約束をした。
 約束なんてしなくても、休みの日は出かけるにしろ、家にいるにしろ、ほとんど冬子さんと一緒にいるのだけど。
 でも、彼女のほうから何か――どこに行きたいなどと言ってくることはめったにないので、少しだけ嬉しかった。
 約束してから、冬子さんは毎日天気を気にしているようだった。
 天気予報で雪マークがあると心配そうに空を眺めていた。
 しばらくは穏やかな天気が続いていたものの、よりにもよって約束をした当日に天気は荒れてしまった。
 朝起きて窓の外を見ると、昨日までの天気からは一変して雪と風が酷いことになっていた。
 暖かい日が続いていたおかげでわずかに覗いていた地面もすっかりまた白い色に戻ってしまっている。
 冬子さんはいつもいる居間の大きな窓の前に座って、今にも泣きそうな顔で空を見上げていた。
 手を伸ばしそうになって、すんでのところで思いとどまった。
 幽霊の彼女には触れられないのだ。
 何か言葉をかけたほうが良いのだとは思うが、話すことは苦手なため、何を言ったらいいのかも分からなかった。
 どうすれば慰められるのか分からず、とりあえず彼女の側に腰を下ろした。
 窓辺に座って、ただ絵を描いた。
 いつもと変わらないけれど、自分にはそうすることしか出来ないから。
 スケッチブックの上で鉛筆を動かしながら時々冬子さんのほうを窺ってみた。
 朝は酷く落ち込んでいる様子だったが、次第に落ち着いてきたようだった。
 泣きそうな顔が消えたことにほっとする。
 昼を過ぎて、ようやく雪と風が収まってきた。
 窓から外の様子を確認して、出かけるなら今しかないなと思った。
 冬子さんはすっかり今日出かけるのを諦めているようだったが、せっかく約束したのだから、諦めたくはない。
 天気を気にしていたということは、晴れていないと見れない、あるいは雪が積もってしまうと見れないものなのかとは思うが、万一ということもあるかもしれない。やはり見れなかったとしても、その場所に行って、そこに何があったのか教えて欲しいと思う。