New year

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 こんにちは、冬子です。冬の子供と書いてトウコと言います。
 私は北の大きな都市の外れにある、小さなお家に居候させてもらっている幽霊です。
 古い年が終わり、新しい年になりました。
 新年ですが、北の大地は年明け前から天気が良くありません。
 雪はそれほどでもないのですが、風がとても強く、地面や屋根などに積もった雪を巻き上げて地吹雪になっています。
 私は幽霊なので気候の影響など受けないのですが、流石にここまで荒れた天気だと出かける気になれず、ずっとお家の中に閉じこもっています。
 今日も、いつものように居間の大きな窓の前に座ってのんびりと庭を眺めています。
 外は風がごうごうと音を立てていますが、家の中は静かです。
 それもそのはずで、現在、お家には誰もいません。
 このお家のご主人である修也さんも、その甥っ子の継春くんも、そして同居猫のトラコさんも、誰もいないのです。
 大晦日から二人ともご実家の方へ帰られているのです。
 トラコさんは流石に一匹では残していけないからと、修也さんが連れて行きました。
 このお家には今、私しかいません。
 こうしてお家で一人きりなるのはとても久しぶりな気がします。
 平日の昼間などは修也さんも継春くんもお仕事と学校へ行っているのでお家にいないのが普通ですが、その場合でもトラコさんはいましたので。
 あぁ、でも、去年も修也さんは年末年始にかけてトラコさんを連れてご実家に帰られていました。
 そう考えると、たったの一年振りです。
 酷く久しぶりな気がするのは、やはり去年の春、継春くんと出会ったからでしょうか。
 春に出会って、まだ冬です。
 継春くんと出会って、まだ一年も経っていないんですね。
 去年の春から、色んなことを経験しました。
 おしゃべりすることが出来るようになって、一緒にお出かけして、思えば私の毎日は随分と賑やかになっていたのでしょう。
 だからこそ、一人きりの今、こんなにも静かだと思うのかもしれません。
 ぼんやりとお庭を眺めます。
 雪景色のお庭にも強い風が吹いて、雪を巻き上げ、空も地面も真っ白です。
 寂しいと思います。
 去年の誰もいない年末年始をどうやって過ごしていたのでしょうか。思い出せません。
 立てた膝の上に頭を乗せて目を閉じました。
 継春くんのことを思い出します。
 出会った時のこと、公園で鉢合わせた時のこと、初めて話しかけてくれた時のこと、初めて一緒に出かけた時のこと……。
 寂しい気持ちはまだあります。
 それでも、なんとなく、胸の辺りが暖かくなったような、そんな気もします。
 ふと、物音がした気がして顔を上げました。
 いつの間にか外の天気は落ち着いてきています。
 まだ空は灰色の雲に覆われて雪も降っていますが、強い風は収まったようです。
 また玄関の方で音がしました。
 私は軽く首を傾げます。
 修也さんも継春くんも、戻ってくるのは三日だと言っていました。
 まさか泥棒さんでしょうか。
 少しドキドキしてきました。
 窓の前から立ち上がり、玄関へ向かいます。
 廊下からそっと覗いてみました。
 玄関でぱたぱたと雪を払っていたのは、継春くんでした。
 継春くんはすぐに私に気が付きました。

「ただいま、冬子さん」
「あ、えっと、おかえりなさい」

 ほんの少し戸惑いながらも帰宅の挨拶を返します。

「何かあったんですか? 戻ってくるのは三日って仰ってましたよね?」

 続けて聞けば、継春くんはきょとんとした顔で見返してきました。

「今日がその三日だけど」

 私もきょとんとして見返してしまいました。
 先程まで、まだ元旦のお昼過ぎだと思っていたのですが……。
 思ったよりも継春くんとの思い出を振り返るのに夢中になりすぎていたのでしょうか。
 北国の冬は昼と夜の境が曖昧です。
 お日様が空に昇っている時間も短いですが、そもそも空が厚い雲に覆われてしまっていることも多く、日中でも薄暗いのです。
 更に夜は夜で、地面に降り積もった一面の真っ白な雪が外灯の明かりなどを反射してあまり暗くなりません。
 おまけに年末からお天気の悪い日が続いていたのでなおさら、常に薄暗い感じでした。
 もう一つ付け足すならば、お家に誰もいなかったため、時間の経過に気が付く切欠もありませんでした。
 だから多分、それらのせいで、丸一日以上経っていることにも気付かなかったのでしょう。
 私は軽く首を傾げながらもそう納得しました。
 兎にも角にも、一先ず、継春くんは戻ってきたのですから。
 私が考えている間に、継春くんは雪を払い、コートや帽子、マフラー類をハンガーにかけていました。

「冬子さんにお土産があるよ」

 防寒着一式を片付け終わった継春くんがふいに言いました。

「お土産、ですか?」
「お土産っていうと少し大げさかもしれないけど……実家の辺りを軽く描いてきたから、後で一緒に見よう」

 私は目を見開き、それから頷きました。
 嬉しくて顔に自然と笑みが浮かびます。

「あ、と、あけましておめでとう」
「あ、はい、あけましておめでとうございます」

 今年もよろしくと、継春くんは笑って言いました。