What I want to draw

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 こんにちは、冬子です。冬の子供と書いてトウコと言います。
 私は北の大きな都市の外れにある、小さなお家に居候させてもらっている幽霊です。
 九月に入り、そろそろ北の大地は季節が変わります。まだ完全には変わりきっておらず、夏の名残と秋の先駆けが入り混じったような不安定な気候が続いています。
 昼にはたくさんのトンボが悠々と飛び交い、夜には家々の庭の茂みでコオロギが賑やかに音を奏であっています。
 私が居候させてもらっているお家のお庭も、春や夏のような華やかさはないものの、ピンクや白色のコスモスや小さな萩の花などの秋の花が咲き始めています。
 継春くんが通う学校の新学期も始まってだいぶ経っています。
 夏休みの間は平日でも一緒にお出かけしたりしていたので、少し、寂しいです。
 でも継春くんは学生なのだから、しょうがないですよね。
 一緒に学校に行ってみようかと思ったこともあるんですが、お休みの日のように人があまりいない時なら兎も角、多くの学生さんたちが普通に生活している中に幽霊とはいえ部外者が入るのはいけないような気がして、実行はしませんでした。
 本当のことを言うと、ちょっとだけ、怖かったのもあります。
 私が幽霊になってそれなりに経ちますが、やはり誰にも気が付いてもらえないことは、寂しくて悲しいです。
 継春くんは私のことが見えていますが、それが普通ではないことは分かっています。
 多分、ほとんど誰にもそのこと――私のような幽霊が見えるなんてことは言っていないのではないでしょうか。
 もし私が平日一緒に学校に行ったとしても、継春くんは私なんていないように振舞うでしょう。それこそ、継春くんがお家に越してきた初めの頃のように。
 それが、私には悲しくて、怖いように思われるんです。
 だから、平日の学校には行きません。
 以前のように平日の昼間はお友達の幽霊さんに会いに行きがてら近所をお散歩したり、お家で日向ぼっこをしながらお庭を眺めたりしてすごしています。
 その代わり、土曜日や日曜日、継春くんがお休みの日には一緒に出かけたりします。
 今日は夏のようにからっと晴れた良い天気だったので、少し遠くの大きな公園に出かけました。
 今までにも何度も一緒に来ています。広い敷地にたくさんの草花が植えられているので、その時々で色々なお花が見られるんです。
 何かのお花が見頃だと聞けば、一緒に見に来ています。
 公園で色とりどりの綺麗なお花を見て歩き、時には立ち止まって継春くんが写生をし、私はその様子を眺めます。
 今はダリアが見頃でした。丸い大輪の鮮やかなお花はとても見応えがあるものでした。
 公園の敷地内には私達以外にもたくさんの人がいます。
 芝生で遊んでいる人、ジョギングをしている人、お花を見ながら散歩をしている人、写真を撮っている人もいれば、継春くんのようにスケッチブックやキャンバスにお絵描きしている人もいます。
 継春くんもそうですが、絵を描かれている方は大体見頃のお花を中心に風景を描いています。
 でも、今日見かけた方は珍しいことに、風景ではなく、人を描いていました。
 ちょっとした売店と休むことのできるスペースがある建物の側に腰を落ち着けて、頼まれた方の似顔絵を描いて、出来上がった絵を売っているようでした。
 通りがかった何人かの人が珍しそうに描いてもらったりしていました。
 それを見ながら、ふと疑問に思ったことを口にしました。

「継春くんはいつも風景を描いていますけど、人は描かれないんですか?」

 今までに見せてもらったことのある絵はどれも風景を描いたものでした。絵の一部として人が描かれているものもないわけではありませんでしたが、メインはどれも街並みや自然の草花などの風景でした。

「……描かないわけじゃないけど、風景を描くほうが得意と言うか……好き、かな」
「そうなんですか」

 あぁ、でも風景を描くのが好きなのだということは私が見ていても分かります。側で見ているからこそ分かるのかもしれません。
 描いている時、継春くんはいつもとても真剣な表情を浮かべながらも、目をきらきらと輝かせているんです。

「似顔絵ぐらいなら練習でも描くけど、キャンバスに描くのは、描きたいテーマとか、良いモデルがいれば、かな」

 似顔絵を描いている絵描きさんを遠目に見ながら継春くんは言いました。
 継春くんが描いたどなたかの似顔絵もいつか機会があれば見てみたいと思うのは、少し望みすぎでしょうか。