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 大きな国の、小さな村の、小さな家の、小さな部屋。
 窓辺に置かれた寝台に、上体を起こして横になっている一人の青年がいる。布団の上からでもその体付きはお世辞にも健康的であるとは言えず、また顔色も白を通り越して青白いほどだ。それでも表情だけは明るい。青年は楽しそうな笑みを浮かべながら、膝の上に置いた一冊の絵本を声に出して読んでいる。
 それを聞いているのは二人の少年だ。寝台の上に乗り上げるようにして、絵本をのぞきこんでいる。
 絵本の内容は、一人の少女が病気の双子の弟を助けるために願いを叶えてくれる星を探しに行くという、ありふれたお伽話だ。しかし、淡い色彩で描かれた絵は柔らかく、見ていると心がふわりと温かくなるような、そんな絵本だった。

「――そうして、リリとルルはぴかぴかと輝く星に見守られて、幸せに暮らしました」

 青年――コルスはゆっくりと最後の一文を読み終えると、静かに絵本を閉じた。
 わずかに開けられている窓から心地よい風が入ってきて、薄い窓掛けを揺らしていく。
 二人の少年――テトとラトは互いに見合わせて、にっこりと笑った。

「お星さま見つかってよかったね」
「見つかってよかったね」
「リリが幸せになってよかったね」
「ルルも幸せになってよかったね」
「よかったね」
「よかったね」

 テトとラトは輪唱するように会話をする。
 村の雑貨屋の末息子である双子の少年たちは、見分けがつかないくらいによく似ていた。それこそ鏡に映したかのように髪の毛から手の先、つま先まで、まったく同じ姿形をしている。おまけに行動や口調、性格までもがまるで同じで。二人を見分けられるのは、両親と二人の兄と姉、家族以外ではこのコルス青年だけだった。
 いつも忙しい双子の家族に代わって、身体が弱く、家にこもりがちな彼が二人の小さな頃から子守や遊び相手をしていたのだ。そのため、双子は色々なことを教えてくれるコルスをもう一人の兄のように慕っていたし、兄弟のいないコルスも元気な双子をまるで実の弟のように思っていた。

「テトとラトは願いを叶えてくれるお星さまを見付けたら、何をお願いする?」

 絵本がたいそう気に入った様子の二人に、コルスは尋ねてみた。
 再び絵本を開いて見ていた双子は顔を上げて眼を瞬かせた。首を傾げ、同じ顔を突き合わせる。

「どうしよう」
「どうしようか」
「おかしをいっぱい?」
「おもちゃをいっぱい?」
「わんこが飼いたい」
「にゃんこも飼いたい」

 二人はあれやこれやと挙げあってみるが、これはと思うものがなく、一向に決まりそうになかった。
 その様子を寝台の上の青年は穏やかに笑みを浮かべて見守っている。
 困ってしまった双子は一度口を閉じると、コルスを見上げた。

「コル兄ちゃんは?」
「なにおねがいする?」
「僕かい? うーん、何をお願いしようかな」

 大きな目で見つめてくる二人の頭をそれぞれ撫でながら、コルスは目を細めて考える。
 絵本の話はただの作り話に過ぎないが、それでも、もし、願いを叶えてくれる星があるのなら。

「そうだねぇ……」

 窓から見える四角く切り取られた空は、どこまでも青く、新しい命を芽吹かせた草花はきらきらと輝いていた。