平和な昼休み。
男子生徒が二人、美術室に勝手に入り込んでのんびりと弁当を食べている。
「お、あそこで不良に囲まれてるのってさき先輩じゃね?」
一人が窓の外を見て言った。
もう一人がその横から覗き込む。
「誰だって?」
「三年の木崎 佐紀(きさき さき)先輩」
「何その山本山みたいな名前の人」
二人の視線の先、その話題の人物は、誰も来ないような校舎の物陰で、見るからに悪そうな男子生徒四人に囲まれている。
「いじめられっ子NO.一の座を三年間キープし続けてる人」
「へー、さすがいじめられっ子NO.一。いじめられてるな」
「おお」
こういう場合は先生などに知らせるべきなのだろうが、あの不良たちに知られると仕返しが怖いのと、他人事だしということで二人はただ傍観している。
「ん? 誰か来たぞ」
木崎が不良に小突かれているそこに、制服を気崩した背の高い男子生徒が現れた。
「お、あれは一年の一匹狼くん」
「何だよそれ」
「お前何にも知らないなー。そんなんじゃあ世の中やってけないぞ」
「うるせー。誰だよ」
「紺野 司郎(こんの しろう)くんだよ。今巷で話題の不良少年。ウチの学校の不良集団の勧誘のお誘いをすっぱり断って返り討ちにしたという最強の男だよ」
「へぇー」
その紺野と不良たちが二言三言言葉を交わしたかと思うと、いきなり殴り合いに発展した。最初に手を出したのは不良たちだったが、紺野はそれを軽く避けると、すぐに反撃に転じた。
四対一だったが、紺野は余裕綽々で不良たちを倒してしまった。
「おー、さすが最強の男」
次に紺野は座り込んでいた木崎を助け起こした。
「うーむ。不良少年ではなくて正義の人だったのか」
木崎は助け起こされても最初はうつむいていたのだが、紺野と何事か話すと、きっと顔を上げた。
そして――
「「殴ったっ!?」」
その後、いじめられっ子NO.一の彼が最強の男をこてんぱんにした、との盛大な尾ひれがつけられた噂が学校中を席巻したのだった。
終わり