堕ちるなら

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 窓の外、闇の中に無数の炎が見える。
 あれはこの人を焼く火。この人からすべてを奪う炎。
 それが、民の意志。

「私の、何が悪かったのだろうな」

 ため息と共に呟かれる言葉に私は胸を締め付けられる。
 いいえ。貴方は何も悪くない。貴方はいつも正しかった。一人、正しい道を行っていた……。

「私は、私はな、夢を持っていたのだよ」

 貴方は今どんな顔をしているのですか。
 私には、貴方からすべてを奪う私には、貴方に声を掛ける資格などない……。
 貴方の背中が、ひどく遠い。

「馬鹿みたいな夢だが、すべての民が幸せになる夢だ。この世が平和になる夢だ。そのために私は頑張ってきたのだがな。誰にも理解はされなかったようだ。お前も馬鹿な夢だと思うか?」

 そんなことを、言わないでください。貴方の夢の崇高さは私がよく知っています。
 ずっと側にいた私には、わかります。
 本当に……素晴らしい理想です。
 けれど……。

「すべては民のためだったのだがな……」

 けれど民はそんなことよりも、その日一日を生き抜くだけの食料を欲していたのです!
 貴方にはそれがわからなかった……。
 貴方の夢は今、この貧しい時代には誰にも理解できないのです。豊かな時代にならば受け入れられたでしょう。
 貴方は、生まれてくる時代を間違えたのだ……。

「気にするな最後の戯言だ」

 最後……そう最後です。私が終わらせます。
 私には貴方の夢の素晴らしさも理解できたが、それと共に民の苦しみも理解できたのです。
 民のためにはこうするしか、ないのです……。

「剣は、掲げた剣は折れてしまった」

 私は貴方を尊敬しています。
 堕ちるのならば、私一人が堕ちましょう……。
 ですから、貴方だけは安らかに……、安らかに逝ってください……。
 貴方を、尊敬していました。
 さようなら、父上……。

終わり