From morning till night

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 はじめまして。私の名前は冬子です。冬の子供と書いてトウコと言います。
 私は木がたくさん生えていてまるで林みたいな広い公園の近くの小さな家に住んでいます。小さな家にしては広めの庭があって、季節ごとに花が咲きます。暖かくなってきた最近では椿がほころび始めました。
 私はいつも朝は早めに起きて近所を散歩します。朝早くても結構外に人はいるもので、新聞配達をしているお兄さんや、元気に公園に体操しに行くおじいさん、おばあさん、犬の散歩をしているお姉さんなんかを眺めながらそこら辺をぶらぶらします。家に戻ると一緒に住んでいるトラ猫のトラコさんが起きています。

「おはようトラコさん」
「にゃー」

 私が挨拶をしてもちゃんと返事を返してくれる賢い猫さんです。
 次に居間でのんびり朝日を浴びていると、今度は慌しく二階から男の人が降りてきます。この家のご主人である時野修也さんです。
 今日もまた寝坊をしたみたいですね。慌ててネクタイを結びながらパンを焼いて寝癖を直して顔を洗って焼けたパンを食べながらトラコさんにご飯をあげるのも忘れません。寝坊した修也さんは起きてから一時間もしないうちに家を出ます。
 それを私とトラコさんは玄関までお見送りします。

「いってらっしゃい」
「いってきます!」

 どんなに急いでいても修也さんはこの一言を忘れません。
 私の言葉に返事を返してくれるみたいで少し嬉しいです。
 実は私、幽霊なんです。だから正確に言うとこの家に住んでるんじゃなくて居候しているんです。
 普通の幽霊さんはだいたい決まった場所から離れられないもののようなんですけど、どういうわけか私はどこかに留められているわけでもなく自由に動けちゃうんです。それでぶらぶら散歩している時にこの家を見つけて、花でいっぱいの庭がとってもすてきだったんで、すっかり気に入っちゃったんです。その時はまだ修也さんはここに住んでなくて空家だったんです。だから私が住んじゃっても良いかな、って思ったんです。でもそのうち修也さんが引っ越してきちゃってどうしようかと思ってんですけど、この家が大好きで離れがたかったんで、隅っこのほうに居候させてもらうことにしたんです。
 ちょっとだけ普通の幽霊さんとは違うところもあるみたいですけど、やっぱり私も幽霊であることには変わりないので普通の生きてる人には見えません。でも動物とか子供とかちょっと勘の良い人(世に言う霊感のある人ってやつです)なんかには見えるみたいです。トラコさんは私のことが見えるので、仲良くしてもらっています。修也さんには霊感はないみたいです。それでもたまに目が合ったりもするんですよ。偶然なんですけどね。そういう時は少し胸の辺りが暖かくなる感じがします。
 修也さんが会社に出勤した後は私もちょっとお出かけします。お友達に会いに行くんです。もちろんお友達も幽霊さんです。だけど私とは違ってその場所から離れられないので私が皆に会いに行くんです。
 たいていは昼過ぎぐらいには家に帰ってくるんですけど、たまに夕方までお友達と話している時もあります。家に帰ったら日向ぼっこしているトラコさんのお隣で私もお昼寝します。起きたら庭にでて、あの花がもうすぐ咲きそう、この花はもうお終いかな、とか考えながらお花の様子を見ています。
 七時ごろになると修也さんが帰って来ます。私とトラコさんは玄関でお出迎えします。

「ただいま」
「おかえりなさい」

 本当はトラコさんに言ってるんだと思いますけど、少し私に言ってくれてるみたいで嬉しいです。
 修也さんが帰って来たら私は邪魔にならないようにお部屋の隅っこのほうにいるようにしています。幽霊なんでぶつかってもすり抜けちゃうんですけど、やっぱり何もないわけではないので少しひっかかっちゃうこともあるんです。でもやっぱり誰かと一緒の部屋にいたいな、って思っちゃうから、できるだけ邪魔にならないように部屋の隅っこにいるんです。
 修也さんは自分で作った晩御飯(でもたまにコンビニのお弁当の時もあります)を食べたら、テレビを見たりパソコンをしたり本を読んだりして、十二時ぐらいに寝ます。
 私もその時間に寝ます。私の寝る場所は決まっていません。その日の気分で寝ます。でも居間のソファの上が一番多いです。
 それで、次の日早めに起きて散歩に出かけます。
 これが私の一日です。