昼下がり、涙に暮れる女子生徒が一人。
「ごめんなさいっ! 私が……私が目を放したからっ!」
それを慰めるように男子生徒が肩に手を置いた。
「いいや……君だけの責任じゃないさ……。俺も油断していた……」
「でもっ! 私が目を放さなければこんなことにはっ……!」
「もう、気にするな。まだ時間も材料もあるじゃないか」
「そ、そうね!まだ、終わりじゃないのよね!」
見つめあう二人……。
まるでメロドラマか、どこかの青春ドラマを繰り広げている二人を少し離れた所から冷めた目で見ている女子生徒がいた。
「あ・の・さぁ〜」
忌々しげに彼女は口を開いた。そのこめかみには青筋が浮いている。
「言いたいことがあるんだったらはっきり言ってよね!」
「そうだな。ならばはっきりと言わせてもらう貴様のせいだ」
男子生徒はずばりと言い切った。
「な、何よ! 私はただ二人とも忙しそうだから味付けしてあげようとしただけじゃない!」
まさかそこまではっきりと言われるとは思っていなかった彼女は少しだけうろたえた。
「ほほう、何か? 貴様は味噌汁の味付けをしようとするだけで液体を固体に変えるのか」
「うっ…」
男子生徒の言う通り、ガス代の上に置かれた鍋の中にはなんだか不思議な色のしたわけのわからない硬そうな物体が。
さすがの彼女も視線を逸らした。
「貴様はいつもそうだ。炊飯器にも関らず米を炊かせれば丸焦げにする。野菜を炒めさせればゲル状にする。あげくきゅうりを切らせれば爆発させる! 貴様はいったい何なんだ!」
「私だって知りたいわぁぁぁぁぁっ!」
そう、泣きながら叫ぶ彼女の二つ名は……自然の天敵食材クラッシャー。
調理実習で彼女と同じ班になった者は地獄を見ると言う……。
「だからあれだけお前は手を出すなと言っただろうが!」
「な、何さ! 少しぐらい料理が出来なくたっていいじゃないの!」
「良くない。これで成績がつく」
ばっさりと切り捨てられ自然の天敵食材クラッシャーは床に撃沈した。
「今度は手を出すなよ」
男子生徒はもう一度彼女に釘を刺すと、すでに調理に取り掛かっていた女子生徒の手伝いを始めた。
とある調理実習の時の何気ない一コマだった。
終わり