『一年五組西藤 誠(さいとう まこと)くん至急生徒会室までおこしください』
昼休みの放送が中断されていつものようにかかった放送を聞くと、すぐに俺は弁当をしまって立ち上がった。
「おいおい西藤、またかよ」
「こき使われてんなぁー」
クラスメイトのからかいの声を背後に聞きながら、胸を高鳴らせて生徒会室に向かう。
俺、一年五組六番西藤 誠は今恋をしている。
相手は二年生の須藤 緑(すどう みどり)さん。
きっかけは入学式の次の日に声をかけられたこと。
『君、生徒会に入ってみない?』
にっこり笑顔で、けれど有無を言わせぬような雰囲気でそんなことを言われたら、図体に似合わず内気な俺は断ることなんてできなかった。ただ頷いただけだったのに、何故だかあれよあれよと言う間に生徒会室に連れ込まれ、説明され、入部……いや、入会届を書かされていた。
そこで初めて俺に声をかけてきた人、須藤さんが生徒会長だということを知った。何せ入学式の日は学校には行ったが良いが、あまりの緊張に気持ちが悪くなって保健室で寝ていたので、生徒会長の顔も名前も知らなかったのだ。
この小さい人が、と驚きもしたが、納得もした。
なにせ須藤さんは俺とはまったく正反対の人だったからだ。
明るくて積極的で行動力のある人。
須藤さんは俺の理想の人だった。
俺がその日のうちに恋に落ちたのも当然のことだった。
けれど暗くて消極的で行動力がない俺には告白なんてできなきるわけもなく、入学してから一ヶ月経った今も、同じ生徒会役員という関係に変わりはない。
「西藤くん」
生徒会室のドアを開けると、いつも須藤さんがにっこり笑って出迎えてくれる。
「あれ、取って」
指差す先は棚の上のダンボール。
俺は無言でそれを下ろす。
「いつも呼び出しちゃってごめんねー」
そう、俺は毎日のように昼休みに生徒会室に呼び出される。高い所の物を取るために。
俺は生徒会役員の中でも抜きん出て背が高い。身体測定の時には百八十二センチもあった。
逆に須藤さんは百五十一センチと、一番低い。
だから高い所の物を取ろうとすると人に頼むしかなく、自動的に生徒会で一番背の高い俺が呼び出されるということになる。
この無駄に背が高いことが役に立つのなら構わないのだが、どうも須藤さんは俺のことを手の届かない場所の物を取ってくれる便利な後輩、としか思ってないように思う。
須藤さんはまだまだ俺の手の届かない場所にいる人のようだ……。
終わり