仰ぎ見た空

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 その時は突然やってきた。
 白と灰色の絶妙なコントラスト。幾重にも重なる奥行き――
 重苦しい冬の空が一変して美しい絵画となった。
 灰色に塗りつぶされたような空。けれどそこに潜む自然だけがもたらすことのできる天然の美。
 頬を涙が伝う。
 あぁ、なんて美しいんだろう……。
 ため息が白いもやへと姿を変える。
 いくら見ても見飽きぬ、本物の美――
 生まれてきて、良かっ……

「ジャマ」

 目の前が暗くなった。……と言うかこれは靴底か?
 一瞬何が起きたかわからなかったが、つまりあれだ。
 踏まれたんだ。顔を。

「ジャマだし恥ずかしいからさっさと起きて」

 幼馴染に。

「それとも頭打っておかしくなった?」
「………………………………………パンツ見えるよ」

 無言でぐりぐり踏みつけられた。
 彼女の靴にスパイクがついていなくて良かったと、心底思う。
 とりあえず足をどけてもらい、雪が積もり凍結した地面からよろよろと起き上がった。

「仰向けに転ぶ人って初めて見たわ」
「……うん」

 中身のいっぱいつまったリュックのおかげで頭は打たなかったが、背中がとても痛い。
 なんとなくまだぼんやりとしながら空を見上げた。
 空は――いつもと変わらない空だった。

終わり