私はそこにいた。
そこには何もなかった。私だけが、私という意識だけが、そこにはあった。
無の世界。
偶然か必然か、私という意識は無から生まれ出でた。
けれど私はただそこにいるだけの、ただそれだけの存在だった。私は、私が私であるということ以外何も知らなかった。
何も知らず。何もわからず。
私はただそこにいた。
ずいぶんと長い間そこにいた気がする。それと同時に、それは短い時間だったようにも感じられた。
そこに時間の流れがあったかどうかも定かではないのだが、これは私に時間という概念がなかったことに起因する。
だからこれはとても曖昧なこと。
私という意識以外、何もなかったそこに突然それが現れたのは。
思い返せば突然だったと思うのだが、それが本当に突然だったのかはわからない。前触れのような物があったのかもしれないが、その時はまだ他に対する興味という物を持っていなかったため、気が付いた時にはすでにそれはあったのだ。だから私の意識の上ではそれは突然に現れたことになる。
そしてその時私にわかったことといえば、そこに私ではない別のモノが現れたということだけ。何も知らない私にはそれが何なのかわからなかった。
後に知ることになるが、それは光だった。とても大きな、淡い光。
光が現れてからというもの、私はそれを見続けた。ずっと見ていた。
それが、自分以外のモノに興味を覚えた最初のことだった。
そうして自分以外の物に注意が行くようになると、私はそこがもう無の世界ではないことに気が付いた。
光の外には闇があった。
光と闇と私。
私は光を、時には闇を、見続けた。
そしてまた時が過ぎる。
私は退屈を知るようになった。
光と闇と私の、ただそれだけの世界。表面上は何の変化もなく、私は光と闇を見続けることに飽きていた。
けれど変化は内で起こっていた。大きな光の内側で。
見ることに飽きていた私はそれほど熱心に光を見ることもなく、その変化には気付かなかった。
そして光は突如大きな爆発を起こした。大きな、本当に大きな爆発だった。
私は恐怖を知った。
怖かった。何もわからなかったが、怖かった。どうしたらいいのかもわからずに、私はただただ震えているだけだった。早く収まるようにと願いながら。
けれど爆発はすぐには収まらなかった。最初の爆発の後、小さな爆発が断続的に起こり、時折大きな爆発も数回起きた。
そして私は恐怖を忘れた。長く続くうちに慣れてしまったのだ。
爆発の度に光は欠片を闇へと飛ばした。大きな欠片も、小さな欠片も、方々へと散っていった。
それはとても綺麗だった。キラキラと散っていく様がとても綺麗だった。
その後のことなど何も考えていなかった。今何が起きているのかさえ、私はわかっていなかった。
ようやく爆発が収まった時、光は消えていた。
光が砕け散っていく様を、私は見ていた。綺麗だと、見ていた。
気付いたところで何も出来なかっただろうが、私はひどく悲しい気持ちになった。
光が、消えた。
闇だけの世界。
それからの時を私は闇だけに包まれて過ごした。
そして孤独を知る。
寂しかった。悲しかった。そして――苦しかった。
孤独に苛まれ、私は他への興味を失っていった。外へは目を向けず、自分の中だけを見つめた。
忘れようと、痛みから何からすべて、忘れてしまおうと。
外の小さな変化にも目もくれず、私は内だけを見つめ続けた。
次に私が外へと目を向けたとき、闇の世界はほんの少しだけ変わっていた。
闇に浮かぶ無数の小さな光。
爆発で弾け飛んだ光の破片は、長い時をかけて星へと変化を遂げていた。
どこまでも広がる闇に輝く無数の星々。
ようやく気付いた。私はもう一人ではないと。
無限に広がる宇宙の中、私は星々とともにある。
終わり